実家が兄弟の共有名義に…そのままで大丈夫?共有のリスクと遺産分割の「10年ルール」

「実家は、とりあえず兄弟全員の名義にしてあります」——相続のご相談で、こうしたお話をうかがうことは少なくありません(ご相談内容をもとに再構成した一般的な例です)。共有名義そのものが違法なわけではありません。ただ、共有には「一人では決められないことが増える」という性質があり、時間が経つほど整理しにくくなっていきます。さらに2023年(令和5年)4月1日施行の改正民法で、相続開始から10年が経つと遺産分割の基準そのものが変わるというルールが加わりました。この記事では、実家が共有名義のままだと何が起きるのかを、法務省の公表資料をもとに整理します。
目次
そもそも「実家が共有名義」とはどういう状態か
相続人が複数いる場合、遺産に属する土地や建物は、遺産分割が終わるまで相続人全員の共有(遺産共有)になります。この状態の不動産に、共有物の管理・変更や共有物分割といった「共有に関するルール」を当てはめるときの持分は、法定相続分(遺言で相続分の指定があるときは指定相続分)により算定した割合を基準とすることが、改正民法で明記されました(民法898条2項)。なお、遺産分割そのものの基準は後述する「具体的相続分」であり、これは別の話です。
遺産分割協議で「実家は長男が取得する」と決まれば、実家は長男の単独名義になります。反対に、話し合いがまとまらないまま、あるいは「とりあえず平等に」と法定相続分どおりの共有名義で相続登記をすると、実家は兄弟の共有物として残り続けます。
共有のままだと、何ができて何ができないのか
共有物について何かをしようとするとき、必要な同意の範囲は行為の種類で変わります。2023年4月1日施行の改正民法で、この区分が整理されました。
| 行為の種類 | 必要な同意 | 例 |
|---|---|---|
| 変更(軽微でないもの) | 共有者全員の同意(民法251条1項) | 農地を宅地にする、建物所有を目的として土地を貸す など |
| 変更のうち軽微なもの・管理 | 持分の価格の過半数(民法251条1項・252条1項) | 砂利道のアスファルト舗装、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事は「基本的に共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わないものに当たると考えられる」と法務省資料は説明しています |
| 保存 | 共有者が単独でできる(民法252条5項) | 壊れた箇所の応急的な修理 など |
実務でいちばん影響が大きいのは、実家そのものを売るには共有者全員の同意が必要になるという点です。各共有者が処分できるのは自分の持分に限られるため、共有不動産全体を売るには全員がそろって売主になる必要があります。一人でも反対したり、連絡が取れなかったりすると、売却は前に進みません。
実家を貸す場合も、短期の賃貸借(建物なら3年以内)は持分の価格の過半数で決められるとされています(民法252条4項)。ただし借地借家法の適用がある賃貸借は、約定された期間内での終了が確保されないため基本的に全員の同意が必要で、一時使用目的の賃貸借(借地借家法25条・40条)と存続期間3年以内の定期建物賃貸借(同法38条1項)が例外とされています。
なお、自分の持分だけを第三者に売ることは、一般に各共有者が単独で行えるとされています。ただ、持分だけを買い取る相手は限られ、買主が入れ替わって話し合いがより複雑になることもあります。
共有を放置すると起こりやすいこと
共有名義そのものより厄介なのは、「決めないまま時間が過ぎること」です。よく問題になるのは次の点です。
- 相続が重なって共有者が増える: 共有者の一人が亡くなれば、その持分はさらにその相続人へ引き継がれます。法務省の資料でも「遺産分割をしないまま相続が繰り返されると、土地共有者がねずみ算式に増加」と指摘されています。従兄弟やその子どもまで含めた話し合いになると、合意形成の難しさは大きく変わります。
- 連絡が取れない共有者が出てくる: 改正民法では、裁判所の関与のもとで所在等不明共有者の不動産の持分を取得したり(民法262条の2)、その共有者を除いて変更・管理を決めたりできる仕組みが設けられました。ただし、いずれも裁判所の手続きが必要になるうえ、遺産分割が済んでいない遺産共有のケースでは、相続開始の時から10年を経過しなければ、この持分の取得・譲渡の制度は利用できません(民法262条の2第3項、262条の3第2項)。
- 相続登記の申請義務との関係: 2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請が義務化されています。法務省の資料では、不動産を取得した相続人は「その取得を知った日から3年以内」、遺産分割がされた場合は「その成立日から3年以内」の登記が義務づけられ、正当な理由なく怠ったときは10万円以下の過料の適用対象とされています。施行日前の相続でも、未登記であれば義務化の対象です(この場合は3年間の猶予期間が設けられています)。
- 管理の負担があいまいになる: 「みんなのもの」は「誰のものでもない」になりがちで、草木の手入れや固定資産税の負担が宙に浮き、空き家の放置につながることがあります。
相続開始から10年で、遺産分割の基準が変わる
遺産分割は本来、法定相続分をそのまま当てはめるのではなく、生前贈与(特別受益)や介護などの貢献(寄与分)を反映した「具体的相続分」を基準に行われます。ところが2023年4月1日施行の改正民法により、相続開始(被相続人の死亡)の時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分ではなく、法定相続分(または指定相続分)によることになりました(民法904条の3)。法務省の資料では、その理由として、長期間が経過すると生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れるため、具体的相続分の算定が困難になることが挙げられています。
例外として、次の場合は10年経過後も具体的相続分による分割が行われるとされています。
- 10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
- 10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月経過前に、その相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
また、10年が経過した後でも、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意すれば、具体的相続分での分割は可能とされています。
施行日前に発生した相続にも適用される(猶予期間あり)
このルールは、改正法の施行日(令和5年4月1日)より前に亡くなった方の遺産分割にも適用されます(改正法附則3)。ただし経過措置として、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられています。
共有状態を整理する主な方法
まず、話し合い(遺産分割協議)がまとまるのであれば、それがいちばん負担の少ない道です。まとまらない場合は家庭裁判所の遺産分割調停・審判、遺産分割が済んだ後に残る通常の共有については共有物分割の協議や裁判による共有物分割(民法258条)という枠組みになります。裁判による共有物分割の方法として、法務省の資料では次の3つが説明されています。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 現物分割 | 共有物を共有持分割合に応じて物理的に分ける方法 |
| 賠償分割 | 共有物を共有者の一人(又は複数)の所有にし、共有物を取得した者が他の共有者に代償金を支払う方法 |
| 競売分割 | 共有物を競売により第三者に売却し、売却代金を共有持分割合に応じて共有者で分ける方法 |
改正民法では、賠償分割が可能であることが明文化され(民法258条2項)、現物分割・賠償分割のいずれもできない場合などに競売分割を行うという検討順序も明確化されました(同条3項)。
実家のように物理的に分けにくい不動産では、「誰かが取得して他の兄弟に代償金を払う」か「売って現金で分ける」かが現実的な選択肢になることが多く、そのためには実家の価値がどれくらいかという情報が欠かせません。当相談室にお寄せいただくご相談でも、話し合いが平行線になっているご家庭ほど、金額の目安が共有されていないケースが目立ちます。
まとめ
実家が兄弟の共有名義になっていること自体は、珍しいことではありません。問題は、その状態を「決まっていない状態」のまま長く置いてしまうことです。共有者は相続のたびに増え、連絡は取りにくくなり、2023年4月施行の改正民法では、相続開始から10年を過ぎると遺産分割の基準が法定相続分に切り替わることになりました。
まずは、(1)実家の登記簿上の名義が今どうなっているか、(2)相続がいつ発生したか、(3)遺産分割協議書があるかどうか——この3点を確認するところから始めるとよいでしょう。どの整理の仕方が合っているかは、ご家族の関係、実家の状態や立地、税金の見通しによって変わり、一般論だけで決められるものではありません。具体的なご判断にあたっては、司法書士・税理士・弁護士などの専門家や、当相談室にご相談ください。
よくある質問
Q. 実家が兄弟の共有名義ですが、売却するには全員の同意が必要ですか?
各共有者が処分できるのは自分の持分に限られるため、共有不動産そのものを売却するには、原則として共有者全員の同意が必要です。自分の持分だけを第三者に譲渡することは一般に単独で行えるとされていますが、買主が入れ替わることで話し合いが複雑になることもあります。
Q. 遺産分割の「10年ルール」とは何ですか?
2023年(令和5年)4月1日施行の改正民法により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分ではなく法定相続分(または指定相続分)によることになりました(民法904条の3)。10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割請求をした場合などは例外とされ、相続人全員が合意すれば10年経過後も具体的相続分による分割は可能とされています。
Q. 何年も前に発生した相続にも「10年ルール」は適用されますか?
施行日(令和5年4月1日)前に開始した相続にも適用されますが、経過措置として少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられています。法務省の資料では、施行時にすでに相続開始から10年が経過しているケースなどでは、令和10年3月31日の経過時が基準になると説明されています。
※本記事は2026年8月6日時点で公表されている法務省の情報に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する法務・税務上の助言ではありません。制度は改正・運用変更される場合があります。実際の手続きや判断にあたっては、必ず法務局および有資格の専門家にご確認ください。
出典: 法務省 新制度の概要・ポイント/民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要(令和8年4月版・PDF)/令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(PDF)
